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2026/08/02 コラム

夫・妻のiCloudやGoogleアカウントを勝手に見るのは違法?不正アクセス禁止法のリスクを解説

はじめに

配偶者の不倫を疑ったとき、「スマートフォンの中身を確認したい」「iCloudGoogleアカウントにログインすれば証拠が見つかるのではないか」と考える方は少なくありません。しかし、他人のIDとパスワードを無断で使ってクラウドサービスにログインする行為は、たとえ夫婦の間であっても、不正アクセス禁止法違反として刑事罰の対象となるおそれがあります。

不倫の証拠を集めるつもりが、かえってご自身が刑事責任や損害賠償責任を問われ、交渉や裁判で不利な立場に立たされてしまっては本末転倒です。

本記事では、弁護士法人長瀬総合法律事務所が、配偶者のクラウドデータへのアクセスがどのような場合に違法となるのか、違法に収集された証拠は裁判で使えるのか、そして適法に証拠を集めるにはどうすればよいのかを解説します。

Q&A

Q1.配偶者のIDとパスワードを使ってiCloudにログインしたら犯罪になりますか?

A.不正アクセス禁止法違反となるおそれがあります。同法は、他人の識別符号(IDやパスワード)を無断で入力してインターネット経由でアクセス制御されたサービスにログインする行為を「不正アクセス行為」として禁止しており、違反した場合は3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています(なお、202561日の改正刑法施行により、従来の懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されました)。

Q2.違法な方法で手に入れた証拠は、裁判で使えますか?

A.民事訴訟では、刑事訴訟と異なり、違法に収集された証拠であっても直ちに証拠として使えなくなるわけではありません。裁判所は自由心証主義のもとで証拠を評価します。もっとも、著しく反社会的な手段を用いて人格権を侵害して収集された証拠については、証拠能力が否定されることがあるとした裁判例があり、収集方法の悪質性によっては証拠として採用されないリスクがあります。また、証拠として採用されたとしても、収集経緯が問題視されれば、裁判所の心証や慰謝料額の評価に悪影響を及ぼしかねず、相手方から逆に損害賠償請求を受ける可能性もあります。

Q3.スマートフォンのロックを勝手に解除して中を見るのも不正アクセスですか?

A.不正アクセス禁止法が対象とするのは、インターネットなどのネットワークを経由したアクセスです。そのため、手元にある端末のロックを解除して端末内のデータを直接閲覧する行為は、同法の「不正アクセス行為」には通常あたりません。ただし、違法でないという意味ではなく、プライバシー権の侵害として不法行為に基づく損害賠償の対象となる可能性がありますし、端末からクラウド上のデータ(サーバー上のメールや写真など)にアクセスすれば、不正アクセス禁止法の問題が生じ得ます。

解説

不正アクセス禁止法の基本

不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)は、他人のID・パスワードを無断で入力してログインする行為(なりすまし型)や、セキュリティの欠陥を突いて侵入する行為を「不正アクセス行為」として禁止しています。違反に対する罰則は3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。

また、同法は不正アクセス行為そのものだけでなく、他人のIDやパスワードを不正に取得・保管する行為や、フィッシングサイトによってパスワードの入力を求める行為なども処罰の対象としています。配偶者のパスワードをメモして保管しておく行為自体が、不正アクセスの用に供する目的があれば処罰対象となり得る点には注意が必要です。

重要なのは、これらの規制に「夫婦だから」「家族だから」という例外はないことです。アカウントは名義人ごとに保護されており、婚姻関係にあることは無断ログインを正当化する理由にはなりません。

どこからが危険なのか:行為ごとのリスクの段階

配偶者の情報に接する場面といっても、その態様はさまざまです。リスクの程度を整理すると、おおむね次の図のような段階で考えることができます。

【図解】配偶者のスマホ・クラウド閲覧の法的リスクの段階イメージ

端末の閲覧とクラウドへのアクセスの違い

リビングに置かれた家族共用のタブレットに通知が表示され、それを目にしたという場合のように、特段の作為なく情報に接した場合は、直ちに違法と評価されることは考えにくいといえます。他方、ロックのかかっていない配偶者のスマートフォンを無断で開いてLINEのトーク履歴を閲覧する行為は、不正アクセス禁止法にはあたらなくても、プライバシー侵害として民事上の責任が問題になり得ます。

さらに進んで、配偶者のパスコードを無断で入力してロックを解除する行為、そして配偶者のApple IDGoogleアカウントのパスワードを無断で使用してiCloudGoogleフォト、Gmailなどにログインする行為は、後者については不正アクセス禁止法違反という刑事罰のリスクが現実化します。クラウド上のデータはネットワークの向こう側にあるサーバーに保存されているため、端末内のデータの閲覧とは法的な評価が大きく異なるのです。

位置情報の共有設定を相手に無断で有効化して行動を監視するような行為も、プライバシー侵害に加えて、態様によってはストーカー規制法等の問題を生じさせるおそれがあり、避けるべきです。

無断アクセスは発覚しやすい:通知機能と紛争への波及

「ばれなければ問題にならない」という考えは禁物です。現在の主要なクラウドサービスは、セキュリティ対策として、新しい端末やブラウザからログインがあった際に、本人のメールアドレスや端末に通知を送る仕組みを備えています。普段と異なる場所からのアクセスとして警告が表示されることもあり、無断ログインは本人に発覚しやすいのが実情です。

無断アクセスが発覚すると、不倫をめぐる紛争そのものにも波及します。離婚調停や訴訟の場で、相手方から「違法な手段で情報を取得された」という主張がなされれば、こちらの請求の正当性に関する心証に影を落としかねませんし、不正アクセスを理由とする刑事告訴や慰謝料請求が持ち出されて、交渉材料として利用されることもあります。本来は被害者の立場であったはずが、攻守の入れ替わった争いを抱え込むことになるのです。

違法収集証拠が交渉・裁判に与える影響

民事裁判では、違法に収集された証拠も直ちに排除されるわけではなく、たとえば相手に無断で会話を録音したケースについて、証拠能力を認めた裁判例が一般的です。しかし、著しく反社会的な手段で人格権を侵害して収集した証拠は証拠能力が否定され得るとされており、不正アクセスという犯罪行為によって取得したデータは、このリスクを正面から抱えることになります。

加えて、実務上はより現実的な問題があります。証拠の入手経緯を相手方から追及された場合、不正アクセスの事実が明るみに出れば、刑事告訴や損害賠償請求(プライバシー侵害の慰謝料請求)という反撃を受け、本来優位に進められたはずの慰謝料交渉が、互いの責任を打ち消し合う複雑な紛争へと変質してしまいかねません。証拠収集の適法性は、紛争全体の主導権に関わる問題なのです。

適法に証拠を集めるための代替手段

不倫の証拠は、違法な手段に頼らなくても集める方法があります。たとえば、自分名義の端末や家族共用のパソコンに残された情報、家計の資料(クレジットカードの利用明細や領収書)、自身が同乗する自家用車のドライブレコーダーの記録などは、比較的問題が生じにくい情報源です。配偶者との会話を録音し、不貞を認める発言を確保する方法も有力です。

また、決定的な証拠が必要な場合には探偵(調査会社)による行動調査、不倫相手の特定が必要な場合には弁護士会照会(弁護士法23条の2)、訴訟になれば裁判所を通じた文書送付嘱託や調査嘱託といった手段もあります。どの手段が適切かは事案によって異なるため、自己判断でリスクのある行動に出る前に、弁護士に相談することをおすすめします。

なお、家族で共有しているアカウント(共用の写真ストレージやファミリー共有設定など)について、自分にも利用権限が与えられている範囲で閲覧することは、無断アクセスとは状況が異なります。また、配偶者本人がパスワードを伝えて閲覧を許諾していた場合には、その範囲のアクセスは不正アクセス行為にあたらないと考えられます。もっとも、過去に教えられたパスワードを、関係が悪化した後に本人の意思に反して使用することは、許諾の範囲を超えると評価されるおそれがあり、安全とはいえません。利用権限の有無が曖昧な場面こそ、慎重な判断が求められます。

弁護士に相談するメリット

クラウドデータやスマートフォンの問題が絡む不倫事案では、弁護士に相談することで次のようなメリットがあります。

第一に、予定している証拠収集の方法が違法とならないか、事前にリスクの評価を受けられることです。第二に、既に入手してしまった情報がある場合に、それを交渉や裁判でどう扱うべきか(積極的に使うべきか、使い方を慎重にすべきか)について、戦略的な助言を受けられることです。第三に、弁護士会照会や裁判上の証拠収集手続など、適法かつ実効的な代替手段を組み合わせた進め方を設計できることです。

当事務所では、デジタル機器やクラウドサービスが関係する不貞事案についても、証拠の適法性に配慮した進め方をご提案しています。

まとめ

配偶者のIDやパスワードを無断で使用してiCloudGoogleアカウントにログインする行為は、夫婦間であっても不正アクセス禁止法違反となるおそれがあり、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という刑事罰の対象です。端末内の閲覧であっても、プライバシー侵害として損害賠償の問題が生じることがあります。

不倫の証拠集めは、適法な手段で行うことが、結局はご自身の請求を守る近道です。証拠収集の方法に迷ったときは、行動を起こす前に弁護士へご相談ください。


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