コラム

2025/10/12 コラム

財産分与と慰謝料の同時請求:法的整理とトラブル回避のポイント

財産分与と慰謝料の根本的な違い

離婚に際して請求される金銭には、主に「財産分与」と「慰謝料」がありますが、この二つは法的根拠も目的も全く異なる別個の権利です。両者を混同すると、交渉や法的手続きにおいて不利益を被る可能性があるため、その違いを正確に理解することが重要です。

項目

財産分与

慰謝料

法的根拠

民法第768

民法第709条・第710条(不法行為)

目的

婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産の公平な清算

不貞行為やDVなど、不法行為によって受けた精神的苦痛の賠償

有責性(どちらに非があるか)

原則として不要(貢献度に応じて分配)

必須(加害者が被害者に対して支払う)

請求期限

離婚成立から2

損害及び加害者を知った時から3

基準額

共有財産の2分の1が原則

事案により様々(例:50万円~300万円程度)

このように、財産分与は夫婦の協力関係の「清算」であり、慰謝料は一方の違法行為に対する「賠償」です。特に、請求できる期間が異なる点は、実務上、重要な注意点となります。

両請求権の関係性:最高裁判所の判断

財産分与と慰謝料は別個の権利であるため、両方を同時に請求することが可能です。しかし、実務上、両者の関係は柔軟に取り扱われています。

最高裁判所の判例によれば、財産分与の金額や方法を定める際には、「一切の事情」を考慮することができるとされています。そのため、離婚の原因を作った有責配偶者に対して、慰謝料としての性質も含めて財産分与を行うこと(慰謝料的財産分与)が認められています。これは、例えば共有財産の2分の1を超える額を被害者側に分与することで、慰謝料の支払いに代える、あるいは慰謝料額を上乗せするという方法です。

この方法は、手続きを一本化できるメリットがある一方、注意も必要です。もし慰謝料的財産分与として金銭を受け取った場合、後から別途、慰謝料を請求することは、原則として難しくなります。なぜなら、財産分与によって精神的苦痛は既に慰謝されたと判断される可能性があるからです。したがって、交渉や調停の際には、支払われる金銭が純粋な財産分与なのか、慰謝料の要素を含むものなのかを合意書などで明確にしておくことが、後のトラブルを防ぐ上で不可欠です。

最重要課題:相手方の財産隠しへの法的対抗策

財産分与や慰謝料請求において、相手方が意図的に財産を隠匿(財産隠し)することは、残念ながら少なくありません。しかし、財産隠しが疑われる場合でも、泣き寝入りする必要はありません。日本の法制度は、財産を調査するための法的手段を用意しています。

任意開示の請求

最初のステップは、相手方に対して任意の財産開示を求めることです。預金通帳や給与明細、保険証券、不動産登記簿謄本などの開示を求め、協議の前提となる財産を確定させます。

弁護士会照会(23条照会)

相手が任意の開示に応じない場合、弁護士に依頼することで「弁護士会照会制度」を利用できます。これは、弁護士が所属する弁護士会を通じて、金融機関や勤務先、保険会社などに対し、必要な情報の開示を求めることができる制度です。照会を受けた機関は、正当な理由なく回答を拒否することはできず、相手の預金口座の取引履歴や給与額、生命保険の契約内容などを明らかにできる可能性があります。

調査嘱託

調停や裁判といった裁判所の手続きの中では、「調査嘱託」という、より強力な手段を用いることができます。これは、裁判所が金融機関などに対して情報の開示を命じるものであり、弁護士会照会で開示が拒否された場合でも、裁判所からの命令であれば応じてもらえる可能性が高まります。

財産の保全処分(仮差押え・仮処分)

相手方が財産を費消したり、名義を変更したりする恐れがある場合には、裁判所の判断を待たずに財産を凍結する「保全処分」を申し立てることが有効です。具体的には、預金口座を凍結する「仮差押え」や、不動産の処分を禁止する「仮処分」といった手続きがあります。これにより、最終的な解決がなされるまで相手の財産を確保し、権利の実現を確実にすることができます。

これらの法的手段は、専門的な知識と手続きを要するため、財産隠しが疑われる場合には、速やかに弁護士に相談し、適切な対抗策を講じることが重要です。


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