2025/10/11 コラム
慰謝料の減額事由:被害者側の過失相殺が認められるケース
過失相殺の法的根拠
不法行為に基づく損害賠償請求において、被害者側にも何らかの過失があった場合、裁判所はその過失を考慮して賠償額を減額することができます。これを「過失相殺」といい、民法第722条2項に定められています。不貞行為の慰謝料請求においても、この過失相殺の法理が適用されることがあります。請求をされた側(不貞行為の当事者)から、請求者である配偶者(被害者)にも婚姻関係を悪化させた責任の一端があると主張され、慰謝料が減額されるケースです。
慰謝料減額の最大の要因:不貞行為以前の夫婦関係の破綻
不貞慰謝料は、不法行為によって「平穏な婚姻共同生活を送る権利」が侵害されたことに対する精神的苦痛を賠償するものです。したがって、不貞行為が始まる以前から、既に夫婦関係が修復不可能なほどに冷え切り、実質的に「破綻」していたと認められる場合には、不貞行為によって新たに生じた損害は小さい、あるいは存在しないと評価されます。これは、過失相殺が適用される最も典型的なケースです。
「夫婦関係の破綻」は、単に「夫婦仲が悪かった」という主観的な感情の問題ではなく、客観的な事実に基づいて判断されます。裁判所が破綻を認定する際に重視する主な事情は以下の通りです。
- 長期間の別居
物理的に生活の本拠を異にし、夫婦としての協力関係が失われている状態。明確な期間の定めはありませんが、数年単位の別居は破綻の有力な証拠と見なされます。 - 離婚協議・調停の進行
不貞行為以前から、当事者間で具体的な離婚の話し合いが進んでいたり、家庭裁判所に離婚調停が申し立てられていたりする場合も、破綻を強く推認させます。 - 家庭内別居の状態
同居していても、会話や性的交渉が全くなく、食事や家計も別々であるなど、夫婦としての実態が失われている状態。
不貞行為が開始された時点で既に婚姻関係が実質的に破綻していたと認定された場合、慰謝料は大幅に減額されるか、事案によっては請求自体が認められないこともあります。最高裁判所の判例も、婚姻関係が既に破綻していた場合には、特段の事情がない限り、配偶者の一方は不貞相手に対して慰謝料を請求できないとの立場を示しています。
この法的な評価は、被害者を非難するという趣旨ではありません。むしろ、保護されるべき「婚姻共同生活の平穏」という利益が、不貞行為の時点ですでに失われていたため、賠償すべき損害そのものが小さい、という因果関係に基づく技術的な判断です。
破綻以外に考慮されうる「被害者側の事情」
夫婦関係の完全な破綻には至らないまでも、被害者側の言動が不貞行為を誘発する一因となったと評価される場合にも、過失相殺が適用されることがあります。具体的には、以下のような事情が考慮される可能性があります。
- 被害者側によるDV(身体的・精神的暴力)やモラルハラスメント
- 正当な理由のない性交渉の拒否
- 浪費や家事・育児の放棄といった、配偶者としての協力義務の不履行
- 被害者側自身の過去の不貞行為
これらの事情は、あくまでも慰謝料額を算定する上での一要素であり、これらの事情があれば直ちに不貞行為が正当化されるわけではありません。
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