2025/01/23 コラム
不法行為としての慰謝料請求権(民法709条・710条)をわかりやすく解説
不倫・浮気問題で慰謝料を請求できる法律的根拠とは?
はじめに
夫婦の一方が不倫・浮気をしていた場合、「慰謝料を請求したい」「不倫相手にも責任をとってもらいたい」と考える方は多いでしょう。ですが、「なぜ慰謝料を請求できるのか?」「どうして法律上、相手に責任が生じるのか?」といった疑問をお持ちの方も少なくありません。
実は、不倫や浮気などの行為は民法709条・710条に規定される「不法行為」に当たる可能性があり、これを根拠として慰謝料を請求することができます。とはいえ、法律の条文だけ読んでも内容が難しく、どう適用されるのか不明確な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本稿では、不倫・浮気問題において「不法行為として慰謝料を請求できる理由」を解説します。あわせて、請求が認められる条件や、実務上のポイントなども取り上げています。不倫問題や慰謝料請求で悩んでいる方にとって、少しでもヒントになる情報をお伝えできれば幸いです。
本記事は弁護士法人長瀬総合法律事務所が作成しています。法律の専門家の視点から、できるだけ平易な言葉で解説しておりますが、実際には個別事情によって結果が変わる場合もあります。具体的なケースでお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
Q&A
ここでは、民法709条・710条を根拠とする不倫・浮気に関する慰謝料請求について、よくある疑問をQ&A形式でまとめています。
民法709条・710条とはどのような法律条文ですか?
民法709条は「故意または過失によって他人に損害を与えた場合は、その損害を賠償しなければならない」というルールを定めています。民法710条は、「不法行為による損害賠償の対象として、財産的損害だけではなく精神的損害(慰謝料)についても賠償を請求できる」という内容です。
つまり、「他人の権利や法的利益を侵害して損害を与える行為」をした者は、故意や過失がある限り、加害者として賠償責任を負わなければならないということを定めています。
なぜ不倫や浮気が「不法行為」となるのですか?
夫婦間には、互いに貞操を守る義務(貞操義務)があると解釈されています。不倫や浮気によって「夫婦の信頼関係が侵害された」と評価されると、配偶者の権利・利益を侵害したとみなされることになります。そのため、故意や過失によって夫婦の信頼関係を壊した点について、不法行為としての損害賠償(慰謝料)の請求が認められるのです。
不倫が発覚した場合、必ず不法行為として慰謝料請求が認められますか?
必ずしも認められるわけではありません。慰謝料請求が認められるためには、夫婦関係がまだ破綻していない段階で肉体関係を持ったなどの事実が必要です。たとえば、長い別居などによって夫婦関係が既に実質的に破綻していた場合には、不倫相手に対する慰謝料請求が認められないケースがあります。また、不倫相手が「既婚者であると知らなかった」「騙されていた」など、故意・過失がなかった場合にも請求が認められないことがあります。
夫婦関係が悪化していた場合でも慰謝料は請求できますか?
請求自体は可能ですが、夫婦関係が極度に悪化していた場合、裁判所が「夫婦はすでに破綻していた状態」と判断すれば、不倫による損害は否定される可能性があります。破綻状態にあったか否かは、具体的な事情や証拠によって判断されるため、一概に断定はできません。
不倫相手だけでなく、自分の配偶者にも慰謝料請求できるのですか?
不倫の当事者となった配偶者にも、不法行為に対する損害賠償責任を問うことは可能です。しかし、実際には配偶者との話し合いで離婚や財産分与、養育費などを決める過程で、まとめて解決してしまうケースも少なくありません。離婚する場合は、配偶者との間では財産分与や今後の生活費などを総合的に決める必要があるため、不倫相手への慰謝料請求とは別枠で考えることもあります。
解説
ここからは、民法709条・710条が不倫・浮気問題に適用される仕組みや、実際にどのような手続きで慰謝料を請求していくのかを詳しく見ていきます。
1. 民法709条「不法行為に基づく損害賠償請求」とは
- 法的意味
民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法的利益を侵害し、損害を発生させた場合に、加害者に賠償責任を負わせる規定です。不倫・浮気の場合でいえば「夫婦関係の平穏維持という利益」を侵害したと評価されます。 - 損害と因果関係の立証
不法行為が認められるには、「加害行為」と「損害」の間に相当因果関係があることを立証しなければなりません。たとえば不倫・浮気によって精神的苦痛を受けた事実を、具体的な証拠(不倫期間や内容、夫婦関係の悪化状況など)で示す必要があります。
2. 民法710条「慰謝料の対象と範囲」
- 精神的苦痛への賠償
民法710条は、不法行為によって生じた精神的苦痛に対しても金銭賠償を請求できると定めています。つまり、不倫・浮気によって傷ついた被害者の心のダメージ(非財産的損害)を金銭的に評価し、慰謝料として補う考え方です。 - 慰謝料の金額算定
慰謝料の金額は、不倫の回数や期間、夫婦関係の状態、子どもの有無などさまざまな要素を考慮して決定されます。一般的には50万円~300万円程度が多いと言われますが、ケースによってはそれ以上、あるいはそれ以下となる場合もあります。
3. 慰謝料請求が認められない場合や減額される場合
- 夫婦関係の破綻
不倫開始前に、既に夫婦としての実体が失われていたと認定されると、不倫相手には賠償責任がないと判断されることがあります。 - 不倫相手に故意・過失がない
不倫相手が「相手が既婚者だと知らなかった」「騙されて独身と思っていた」など、客観的にみて仕方ない事情がある場合には、慰謝料請求が認められない可能性があります。 - 被害者側にも落ち度(過失相殺)がある
夫婦仲が悪化していた原因が被害者側にもある場合など、過失相殺として慰謝料が減額される場合があります。
4. 実務上の流れと手続き
不倫・浮気による慰謝料請求は、まずは不倫の事実を裏付ける証拠を集めた上で、相手に請求を通知するのが一般的な流れです。具体的には以下のステップを踏みます。
- 証拠収集
メール・LINE、写真・動画、探偵の調査報告書など、不倫を裏付ける証拠を整理します。 - 内容証明郵便や弁護士からの書面送付
相手に対して慰謝料を請求する旨を伝え、支払いに応じなければ訴訟も辞さないという姿勢を示すこともあります。 - 示談交渉
相手方が支払いに応じるかどうか、金額や支払方法、禁止条項(接触禁止など)の条件を協議して示談書を作成します。 - 合意成立または裁判へ
示談で合意できなければ訴訟に踏み切り、裁判所において慰謝料の認定を求めることになります。
弁護士に相談するメリット
不倫に関わる慰謝料請求は、法的な主張だけでなく、感情面の対立も強くなるケースが非常に多い分野です。こうした複雑な問題において、弁護士に相談するメリットには以下のようなものがあります。
- 適切な証拠収集・立証方法のアドバイス
不倫を立証するためにどのような証拠が必要なのか、どのように確保すればいいのかといった点で専門的な知見を提供できます。違法な手段での証拠収集は逆に訴訟で不利になるリスクがあるため、合法的かつ効果的な方法を相談できるのは大きなメリットです。 - 冷静な交渉・トラブル回避
被害者自身が直接相手と交渉すると感情的になりがちです。弁護士が代理人となることで、法的根拠に基づいた冷静な話し合いが進められ、示談成立の可能性が高まります。相手が支払いに応じない場合や、逆に反論や脅迫をしてきた場合でも、弁護士が窓口となるので安心です。 - 示談書・和解書の作成や裁判対応
示談が成立した場合、法的トラブルを再発させないためにも、しっかりとした契約書・和解書の文面が必要です。弁護士は将来的なリスクまで見据えて契約書を作成し、もし決裂した場合には訴訟手続きにもスムーズに移行できます。 - 精神的負担の軽減
不倫問題は精神的ショックが大きく、被害者は日々の生活だけでも大変な状況になりがちです。法律のプロに相談することで、「どのように進めたらいいかわからない」「言われるがままになってしまいそう」という不安を払拭し、本来の生活に専念できるというメリットがあります。
まとめ
- 民法709条・710条は、不倫・浮気の慰謝料請求を支える法律的根拠
不倫によって夫婦の信頼関係が侵害されたと判断される場合、加害者側(不倫相手や配偶者)は不法行為として慰謝料を支払う義務を負い得ます。 - 夫婦関係の破綻や不倫相手の故意・過失の有無に注意
慰謝料請求が認められるか否かは、夫婦関係が継続しているか、相手が既婚を知っていたかなど、さまざまな事情によって決まります。 - 実務では証拠収集が鍵
不倫の事実を証明するために、探偵報告書やLINEの履歴などの証拠をどう確保するかが重要。 - 弁護士に相談する意義
違法にならない範囲での証拠収集方法や示談交渉、裁判手続きを含む総合的なサポートを受けられます。
不倫問題は、単に「配偶者と不倫相手を責めたい」という感情だけではなく、今後の生活設計、子どもの養育、離婚の可否など幅広いテーマが絡み合います。そのため、法律の知識と実務経験をあわせ持つ専門家のサポートが有益です。具体的にお困りの方は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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