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2026/01/24 コラム

【弁護士監修】慰謝料請求中の別居生活費(婚姻費用)はどうなる?金額の決め方と支払われない時の対処法

不倫の慰謝料請求を行っている最中に別居を開始する場合、慰謝料(過去の精神的苦痛への賠償)とは別に、日々の生活費である「婚姻費用」を確保することが重要です。

相手方が「お前が勝手に出て行ったのだから生活費は払わない」「慰謝料を払うなら生活費は渡さない」などと主張してくることがありますが、これらは法的には誤った主張です。

まずは、基本的な考え方とよくある疑問をQ&A形式で確認しましょう。

慰謝料請求と婚姻費用に関するQ&A

Q1. 相手の浮気が原因で私が家を出ました。勝手に出て行った場合でも生活費は請求できますか?

はい、請求できます。

別居に至った原因が相手方の不貞行為にある場合、被害者であるあなたが家を出て別居を開始することは正当な理由として認められます。たとえ相手が同意していなくても、収入が高い側の配偶者には、別居中の配偶者や子どもの生活費(婚姻費用)を分担する義務があります。

Q2. 相手から「慰謝料を払う代わりに、毎月の生活費(婚姻費用)は無しにする」と言われました。従う必要はありますか?

原則として従う必要はありません。

「慰謝料」と「婚姻費用」は、法的な性質が全く異なります。

  • 慰謝料: 不法行為による損害賠償(過去の精神的苦痛に対する償い)
  • 婚姻費用: 夫婦の扶養義務に基づく生活費(日々の生活を維持するためのお金)

これらは別個に請求できる権利です。「慰謝料を払うから生活費は払わない」という主張は、本来支払うべき二つの義務をごちゃ混ぜにして減額しようとするものであり、安易に合意すべきではありません。

Q3. 慰謝料請求の話し合いが長引いています。生活費の支払いはいつから始まりますか?

原則として「請求した時(意思表示をした時)」からです。

重要なポイントですが、過去に遡って請求することは実務上難しい場合があります。そのため、別居を開始したら(あるいは生活費が止められたら)、直ちに「婚姻費用分担請求」を行うことが重要です。内容証明郵便で請求するか、家庭裁判所に調停を申し立てた時点が支払いの始期(スタート地点)となるのが一般的です。

解説:慰謝料請求中の別居費用・婚姻費用の法的ルール

ここでは、慰謝料請求と同時進行で問題となる「婚姻費用」について、具体的な計算方法や注意点を解説します。

1. 婚姻費用(コンピ)とは何か

婚姻費用(通称:コンピ)とは、夫婦と未成熟の子が、その資産、収入、社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用のことです。

民法760条に基づき、夫婦は資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担すると定められています。

「自分の食い扶持は自分で稼ぐ」ではなく、夫婦である以上、「収入が多い側が少ない側を支え、同程度の生活水準を保障する」のが法の考え方です。

これは、離婚が成立するまで(または再び同居するまで)続きます。つまり、離婚協議や裁判が長引けば長引くほど、相手方は毎月の婚姻費用を支払い続けなければなりません。

2. 金額の相場と算定方法

婚姻費用の金額は、夫婦双方の話し合いで自由に決めることができますが、合意できない場合は、家庭裁判所が公開している「養育費・婚姻費用算定表(令和元年版)」を基準に算出するのが実務のスタンダードです。

金額は主に以下の要素で決定されます。

  • 義務者(支払う側)の年収: 給与所得か自営業かで計算が異なります。
  • 権利者(受け取る側)の年収: 自身の収入も考慮されます。
  • 子どもの人数と年齢: 15歳未満か以上かによって区分されます。

ポイント

慰謝料請求の原因(不倫)があっても、基本的にはこの算定表通りの金額になります。「浮気をしたから婚姻費用を倍払え」ということは、原則としては認められません(ただし、慰謝料的分野を含めて高めに合意することは可能です)。

3. 「相殺」の禁止と実際

よくあるトラブルが、「請求されている慰謝料額(例えば300万円)から、毎月払う婚姻費用(例えば10万円)を差し引いていく」という、相手方からの相殺の提案です。

しかし、法的には婚姻費用のような生活の基盤となる権利について、一方的に相殺することは許されないと考えられています。

生活費が支払われなければ、被害者側は明日からの生活に困窮してしまうからです。

ただし、双方が合意の上であれば、相殺的な処理をすることは可能です。

例えば、「早期に離婚を成立させる代わりに、未払いの婚姻費用分担分を解決金に上乗せする」といった交渉は、実務上よく行われます。

4. 住宅ローンと婚姻費用の関係

別居後、家に残った側と家を出た側のどちらが住宅ローンを支払っているかによって、婚姻費用の計算が複雑になります。

  • 夫(高収入)が家に残り、妻(低収入)が出て行った場合
    夫がローンを払い、かつ妻へ婚姻費用を払う必要があります。ただし、夫は自身の住居費も負担しているため、計算上考慮(特別経費として控除など)される場合があります。
  • 妻と子が家に残り、夫が出て行った場合
    夫が住宅ローンを支払っている場合、それが「住居費の負担」とみなされ、妻へ渡す現金の婚姻費用から一定額が差し引かれる可能性があります。

この計算は専門的で、計算方法を誤ると毎月数万円単位で損をする可能性があるため、弁護士による試算を推奨します。

5. 相手が支払いを拒否・停止した場合の対処法

慰謝料請求の内容証明を送った途端、報復として生活費の口座振込をストップされるケースがあります。

この場合、ただちに以下の法的手段を講じる必要があります。

  1. 婚姻費用分担請求調停の申立て
    家庭裁判所に申し立てます。これにより、支払義務の始期を明確にします。
  2. 審判前の保全処分
    調停が決着するまで待てないほど生活が困窮している場合、裁判所に対して「仮払い」を命じてもらう手続きです。緊急性が認められれば、調停成立前でも支払命令が出ます。

6. 有責配偶者(浮気した側)からの婚姻費用請求

    逆に、もしあなたが「浮気をした側」であり、家を追い出されて生活費を請求したい場合はどうなるでしょうか。

    自ら婚姻関係を破綻させる原因(不貞)を作っておきながら、相手に「私を扶養しろ」と生活費を請求することは、信義則に反するとされ、請求が認められないか、大幅に減額される(子どもの養育費分のみ認められる)傾向にあります。

    これを「有責配偶者からの婚姻費用請求の制限」といいます。

    弁護士に相談するメリット

    慰謝料請求と婚姻費用の問題を同時に抱えた場合、弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。

    1. 「兵糧攻め」を防ぎ、適正な生活費を確保できる

    相手方が経済力を背景に「離婚に応じなければ生活費を渡さない」といった圧力をかけてくることがあります。弁護士は、直ちに調停や保全処分などの法的措置をとり、あなたの生活基盤を守ります。また、源泉徴収票などの資料に基づき、ごまかしのない適正な金額を算出します。

    2. 慰謝料と婚姻費用をトータルで交渉できる

    「毎月の婚姻費用を高めに設定する代わりに、離婚時の財産分与を譲歩する」「慰謝料を一括で払えないなら、婚姻費用に上乗せして分割払いにする」など、家計全体のバランスを見ながら、あなたにとって最も経済的メリットが大きい解決策を提案・交渉できます。

    3. 精神的な負担の軽減

    別居中とはいえ、金銭面の交渉で相手と直接連絡を取るのは大きなストレスです。「お金の話ばかりして」と非難されることもあります。弁護士が窓口となることで、相手との直接接触を避け、冷静に手続きを進めることができます。

    4. 住宅ローンや税金など複雑な計算に対応

    前述の通り、住宅ローンがある場合や、相手が自営業で経費計上を多くしている場合、適正な婚姻費用の算出は困難です。専門家である弁護士が詳細な計算を行い、主張すべきポイントを整理します。

    まとめ

    パートナーの不倫が原因で別居する場合、慰謝料請求だけでなく、毎月の「婚姻費用」を確保することは、あなたの生活を守るための正当な権利です。

    • 別居中でも、収入の高い側には生活費を分担する義務がある。
    • 慰謝料と婚姻費用は別物であり、勝手な相殺は許されない。
    • 支払われない場合は、直ちに調停を申し立てるべき(請求時が支払いのスタート地点となる)。
    • 住宅ローンがある場合や相手が自営業の場合は、計算が複雑になるため注意が必要。

    「生活費の心配があるから、慰謝料請求や別居をためらっている」という方は、決して一人で悩まず、弁護士にご相談ください。

    弁護士法人長瀬総合法律事務所では、慰謝料請求はもちろん、離婚成立までの生活費の確保についても、依頼者様の状況に合わせた最適なサポートを行います。経済的な不安を取り除き、新しい人生への一歩を踏み出すために、まずは私達にお話をお聞かせください。


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