2025/12/08 コラム
不倫問題が職場内での評価やキャリアに与える影響とその回避策
~信頼を守り、キャリアを支えるための具体策~
はじめに
不倫問題が発覚すると、当事者は「職場での評価が下がるのではないか」「昇進に響くのではないか」「最悪の場合、解雇されるのではないか」といった、自身のキャリアに関する深刻な不安に直面します。特に、不倫相手が同じ職場(社内不倫)の場合、その不安は一層強くなります。
日本の法律および裁判例において、従業員の「私生活上の行為」と「企業による懲戒権」の関係は、明確に線引きされています。プライベートな問題である不倫が、即座に懲戒解雇や降格といった不利益処分に直結することは、原則として許されません。
しかし、その行為が「企業の秩序」や「業務」に具体的な悪影響を及ぼした場合には、例外的に処分が認められることもあります。
本稿では、不倫問題が職場内での評価やキャリアに与える法的な影響について解説します。
不倫問題や、それに伴う職場での不当な処分(解雇・降格など)に関するご相談は、ぜひ当事務所へご連絡ください。
Q&A
Q1:不倫問題が職場内での評価やキャリアにどのような影響を与えますか?
法的な処分とは別に、「信頼」という面での影響が考えられます。
- 信頼の喪失
上司や同僚からの「人としての信頼」が低下し、コミュニケーションがギクシャクする可能性があります。 - 評価への間接的影響
信頼低下により、チームワークを要する業務や、高い倫理観が求められる役職(管理職など)への登用において、間接的に不利な評価を受ける可能性は否定できません。 - 業務効率の低下
社内不倫の場合、当事者や周囲が噂や対立に気を取られ、職場全体の業務効率が低下することがあります。
Q2:不倫を理由に、会社からクビ(懲戒解雇)にされることはありますか?
原則として、不当解雇(権利濫用)であり、法的に無効です。不倫はあくまで私生活上の行為であり、会社が従業員の私生活に過度に介入し、それを理由に懲戒処分を行うことは、基本的に認められていません。最高裁判例でも、私生活上の非行を理由とする懲戒は、会社の信用や業務に重大な影響を与える場合に限定されるべきとされています。
Q3:では、懲戒解雇が「有効」になる例外的なケースとは何ですか?
その不倫行為が、単なる私生活上の問題にとどまらず、会社の「企業秩序」を具体的に侵害したか、「社会的信用」を客観的に毀損したと評価される場合です。
例えば、①不倫関係を利用して不正な利益供与を行った、②職務上の地位(例:上司)を濫用して部下と関係を持った結果、相手が退職に追い込まれた、③会社の名前が報道されて顧客離れが起きた、といった具体的な損害が発生した場合がこれにあたります。
解説
ここからは、不倫問題とキャリアに関する法的な基準と、具体的な回避策について詳しく解説します。
1)不倫問題が職場内での評価やキャリアに与える影響
信頼関係の毀損
法的な処分がなくとも、不倫が公になることで、「だらしない」「信用できない」といったレッテルを貼られ、職場内での人間関係が悪化することは避けられません。これが「ソフトな」影響として、昇進や重要なプロジェクトの担当から外されるといった事実上の不利益につながる可能性はあります。
業務効率の低下
特に社内不倫の場合、当事者間の私的な感情のもつれが職場に持ち込まれると、周囲の従業員の士気を下げ、チーム全体の生産性を低下させる原因となります。
2)私生活上の不倫と懲戒解雇の有効性
会社から「不倫を理由に辞めてもらう」といった懲戒解雇や退職勧奨を示唆された場合、その法的な有効性を冷静に判断する必要があります。
原則:解雇は無効(解雇権の濫用)
労働契約法第16条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」の解雇は、その権利を濫用したものとして無効であると定めています。
裁判所は、従業員の私生活上の非行(プライベートな不倫など)は、原則として会社の懲戒権の対象外であるという立場をとっています。
したがって、単に「社内で不倫をした」という事実だけを理由とする懲戒解雇は、ほぼ間違いなく「解雇権の濫用」として無効になります。
例外:解雇が有効となる場合
しかし、その不倫行為が私生活の範囲を逸脱し、会社の利益に具体的かつ重大な損害を与えた場合は、例外的に懲戒処分(解雇を含む)が有効と判断されることがあります。
裁判例などから、以下の2つのケースが挙げられます。
-
- 「職場秩序」を著しく侵害した場合
- 不倫関係が職務上の地位や権限を悪用して行われた(例:上司が部下に対し、人事評価をちらつかせて関係を強いた)。
- 不倫関係のもつれから、職場で暴力、脅迫、業務妨害などを行った。
- 不倫関係が原因で、相手方(特に未成年者や部下)が精神的に追い込まれ、退職や休職に至った場合。
- 社内での不倫行為が公然と行われ、他の従業員の風紀を著しく乱した。
- 「企業の社会的信用」を著しく毀損した場合
- 当事者が会社の「顔」となるような役職(役員や広報担当など)であり、その不倫がメディアで大々的に報道され、会社名も公表された。
- 報道の結果、取引先からの契約解除、顧客による不買運動、株価の暴落など、会社に測定可能な経済的損害が発生した。
- 「職場秩序」を著しく侵害した場合
重要なのは、単なる「噂」や「イメージダウン」ではなく、「具体的・客観的な損害」が立証されなければ、解雇は正当化されないという点です。
3)職場内での評価やキャリアを守るための具体策
不倫問題が発覚した場合、キャリアへの悪影響を最小限に抑えるためには、以下の行動が求められます。
職場に私情を持ち込まない
最も重要な原則です。不倫相手が社内にいる場合でも、職場では純粋な業務上の関係に徹し、私的な会話や接触、感情的な対立を一切見せないようにします。
業務に集中し、成果を出す
失墜した信頼は、言葉ではなく行動、すなわち「業務上の成果」によって回復するしかありません。これまで以上に真摯に職務に取り組み、業務において高いパフォーマンスを維持することが、自身の評価を守る最善の策です。
誠実な態度を示す(必要な場合)
上司などから事情を聴かれた場合、嘘をついたり、開き直ったりすることは最悪の対応です。私的な問題で職場に混乱や心配をかけたことを簡潔に謝罪し、今後は業務に一層集中する旨を誠実に伝えます。詳細を根掘り葉掘り説明する必要はありません。
プライバシーを尊重した対応を求める
会社が業務に無関係な私生活上の問題を執拗に追及したり、他の従業員に情報を漏らしたりする行為は、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。
4)企業側(人事)の視点と適切な対応
企業側(人事・労務担当者)も、社内不倫への対応には法的な慎重さが求められます。
- 事実確認とプライバシー保護
調査は必要最小限の範囲にとどめ、当事者および情報提供者のプライバシー保護を徹底します。 - 就業規則の確認
「職場の風紀・秩序を乱す行為」といった抽象的な規定のみで解雇することは困難です。上記2)で述べたような「具体的な業務への支障」の有無を客観的に評価する必要があります。 - 処分(配置転換など)の合理性
解雇が困難であっても、職場秩序の回復(例:同じ部署にいると業務に支障が出る)を目的として、合理的な範囲での配置転換(異動)を命じることは、企業の裁量の範囲内と認められる場合があります。
弁護士に相談するメリット
不倫問題がキャリアに波及し、会社から不当な処分(解雇、降格、退職勧奨など)を受けた、あるいは受けそうになっている場合、直ちに弁護士に相談すべきです。
- 不当な処分に対する法的対抗
会社から解雇や降格を通告された場合、弁護士が代理人として介入し、その処分が判例に照らして「解雇権の濫用」であり法的に無効であることを強く主張します。弁護士からの通知(内容証明郵便など)により、会社側が処分を撤回するケースも少なくありません。 - 退職勧奨への対応
「自主的に辞めたらどうか」という事実上の「退職勧J」は、態様によっては違法な「退職強要」にあたります。弁護士は、不当な圧力に応じる必要がないことを法的にアドバイスし、録音などの証拠保全策を指導します。 - 職場環境の改善交渉
処分には至らなくとも、職場内でのいじめや嫌がらせ(ハラスメント)が発生した場合、会社には「職場環境配慮義務」があります。弁護士は、会社に対して環境改善を法的に申し入れ、安全に働ける環境の整備を求めます。 - 信頼回復に向けたアドバイス
法的な防御だけでなく、当事者が今後どのように振る舞うことがキャリアへのダメージを最小限に抑えるか、倫理的・実務的な観点からもアドバイスを提供します。
まとめ
- 不倫問題が職場に発覚しても、それが私生活上の行為にとどまる限り、懲戒解雇や降格の理由とすることは原則としてできない(解雇権の濫用として無効)。
- 例外的に処分が有効となるのは、その行為が「職場秩序を具体的に侵害した」または「企業の社会的信用を客観的に毀損した」と認められる重大なケースに限られる。
- キャリアへの悪影響を回避するためには、職場に私情を持ち込まず、業務に集中して成果を出し続けることが重要である。
- 会社から不当な解雇、退職勧奨、その他の不利益処分を受けた場合は、それが法的に無効である可能性が高いため、直ちに弁護士に相談すべきである。
- 弁護士は、不当な処分に対する法的対抗から、職場環境の改善交渉まで、依頼者のキャリアと権利を守るためにサポートします。
職場内での不倫問題が評価やキャリアに与える影響についてお悩みの方は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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