2026/01/31 コラム
【弁護士監修】浮気相手が婚約中だった…婚約破棄トラブルと慰謝料の多重請求リスク
はじめに
パートナーの不倫が発覚し、慰謝料請求をしようとしたところ、「実は相手(不倫相手)も婚約中で、この不倫が原因で婚約破棄になった」という事実が判明するケースがあります。
この場合、単なる不倫慰謝料の請求にとどまらず、相手方の婚約破棄に伴う損害賠償問題が絡み合い、事態は非常に複雑化します。被害者であるあなた(妻・夫)が適切な慰謝料を受け取るためには、相手方の事情(婚約破棄)がどう影響するのかを正しく理解しておく必要があります。
浮気相手の婚約破棄に関するQ&A
まずは、この複雑な状況でよく生じる疑問をQ&A形式で整理します。
Q1. 浮気相手が「婚約破棄になって慰謝料を払わなきゃいけないから、あなたには払えない」と言っています。通りますか?
法的には通りませんが、回収が難しくなるリスクはあります。
浮気相手が、自身の婚約者に対して慰謝料を支払う義務があるからといって、あなたに対する不貞慰謝料の支払い義務が免除されるわけではありません。これらは全く別の権利義務関係です。
しかし、相手の資力(支払い能力)には限界があることが多いため、事実上「無い袖は振れない」状態になり、回収が難航したり、減額交渉の材料にされたりする可能性は高まります。
Q2. 浮気相手の「元婚約者」から、私の夫(妻)が慰謝料を請求されることはありますか?
はい、請求されるリスクが高いです。
あなたの配偶者が、相手が婚約中であることを知りながら関係を持っていた場合、相手の婚約者に対する「婚約関係に対する第三者侵害(権利侵害)」となります。
この場合、元婚約者は、浮気をした当事者二人(あなたの配偶者と浮気相手)の両方に対して、婚約破棄の慰謝料を請求する権利を持ちます。
Q3. 浮気相手の婚約が破棄されたことは、こちらの慰謝料額に影響しますか?
「社会的制裁を受けた」として、減額事由として主張されることがあります。
裁判実務において、不倫の結果として職を失ったり、自身の家庭(または婚約)が壊れたりした事実は、「社会的制裁」を受けたとみなされ、慰謝料額の算定において多少の減額要素として考慮される場合があります。しかし、あくまで考慮要素の一つに過ぎず、請求自体ができなくなるわけではありません。
解説
婚約中の浮気相手とのトラブルで知っておくべき法的構造
ここでは、浮気相手が婚約者であった場合に発生する「四すくみ」の法的関係について、詳細に解説します。
1. 「婚約」の法的効力とは
法律上、婚約は「将来婚姻しようとする合意(予約)」という契約の一種とみなされます。単なる恋人同士の交際とは異なり、正当な理由なく破棄した場合は、債務不履行または不法行為として損害賠償責任が発生します。
【婚約が成立しているとみなされる基準】
- 結納を交わしている
- 婚約指輪を贈っている
- 双方の両親への挨拶・顔合わせが済んでいる
- 結婚式場の予約をしている
- 新居の契約をしている
上記のような事実があれば、法的に「婚約」と認められる可能性が高く、その破壊(不倫による破棄)には重い責任が伴います。
2. 発生する「3つの慰謝料請求」
このケースでは、以下の3方向の慰謝料請求が同時に発生する可能性があります。
- あなた(被害者) → 浮気相手
- 理由: 不貞行為による精神的苦痛。
- 内容: 通常の不倫慰謝料請求です。
- 元婚約者(被害者) → 浮気相手
- 理由: 婚約の不当破棄、債務不履行。
- 内容: 結婚準備にかかった費用(式場キャンセル料など)や精神的苦痛の賠償。
- 元婚約者(被害者) → あなたの配偶者
- 理由: 婚約関係への第三者侵害(不法行為)。
- 内容: 「お前のせいで婚約がダメになった」という損害賠償請求。
3. 「第三者侵害」のリスク(ブーメラン現象)
もしあなたが、配偶者と離婚せずに夫婦関係を修復しようとしている場合、注意が必要なのが「3. 元婚約者 → あなたの配偶者」への請求です。
あなたが浮気相手に慰謝料を請求した結果、浮気相手がパニックになり、あるいは逆上して、自身の元婚約者に全ての事情を話してしまうことがあります。
その結果、元婚約者が激怒し、あなたの配偶者に対して高額な慰謝料請求を行ってくるケースがあります。
結果として、家計全体で見ると
- あなたが得た慰謝料:150万円
- 配偶者が元婚約者に支払う慰謝料:150万円
といった形で、「家計の中でお金が移動しただけで、プラスマイナスゼロ(あるいは弁護士費用分マイナス)」という事態になりかねません。これを防ぐためには、慎重な交渉戦略が必要です。
4. 浮気相手の「支払い能力」の競合
浮気相手は、あなたへの慰謝料と、元婚約者への賠償(キャンセル料等の実費含む)の「二重の債務」を負うことになります。
一般的な会社員等の場合、数百万円規模の支払いを一度に行うことは困難です。
法的には、債権者(あなたと元婚約者)の間に優先順位はありません。
- 早い者勝ち: 先に差押えをした方が回収できる。
- 按分弁済: 破産された場合は、債権額に応じて分配される。
したがって、相手の資力が乏しいと判断される場合は、悠長に構えていると元婚約者に全ての財産を持っていかれ、あなたへの支払いが焦げ付くリスクがあります。
5. 「騙されていた」という反論
あなたの配偶者が、独身のふりをして浮気相手に近づいていた場合、または「婚約しているとは知らなかった」と主張する場合、責任の所在が変わります。
- 配偶者が婚約を知っていた場合
配偶者は元婚約者に対して重い不法行為責任を負います。 - 配偶者が婚約を知らなかった(過失もない)場合
配偶者は元婚約者に対する「故意による権利侵害」がないため、責任を負わない可能性があります。しかし、浮気相手から「既婚者と知らされていなかった(貞操権侵害)」として逆に訴えられるリスクも出てきます。
トラブル解決のための戦略とポイント
このように複雑な状況下で、被害者であるあなたが損をしないためのポイントを解説します。
1. 相手の「婚約破棄」の事実確認
浮気相手が「婚約破棄になってお金がない」と主張しても、それが事実か、あるいは減額のための嘘かを見極める必要があります。弁護士を通じて事実関係を確認し、式場のキャンセル料などの客観的な証拠(損害額)の開示を求めることが有効です。
2. 「求償権の放棄」と「清算条項」の活用
あなたが配偶者と離婚しない(家計が同一)の場合、浮気相手との示談において以下の条項を盛り込むことが戦略的に重要です。
- 求償権の放棄
浮気相手があなたに慰謝料を支払った後、その分担分をあなたの配偶者に請求し返さない(求償しない)と約束させること。 - 三者間合意(可能な場合)
非常に難易度は高いですが、浮気相手、あなた、あなたの配偶者の三者で合意書を作成し、「この件に関しては今後お互いに金銭請求をしない」と取り決めることで、元婚約者からの追及以外のリスク(浮気相手からの逆請求など)を封じ込める方法です。
3. スピード重視の回収
前述の通り、浮気相手の資産には限りがあります。元婚約者とのトラブルが泥沼化する前に、あるいは元婚約者が差押えをする前に、公正証書を作成して支払いを確定させる、あるいは仮差押えを行うなど、迅速な行動が回収率を高めます。
4. 元婚約者への対応
もし元婚約者からあなたの配偶者に連絡が来た場合、感情的な対応は火に油を注ぎます。
「こちらも被害者である」という立場を明確にしつつ、法的な責任範囲(配偶者が婚約を知っていたかどうか、破綻の主原因はどちらにあるか)について、弁護士を通じて冷静に反論・交渉する必要があります。
弁護士に相談するメリット
相手が婚約者持ちである場合のトラブルは、当事者だけで解決しようとすると、感情的なもつれから関係者全員を巻き込んだ大騒動になりがちです。
1. 複雑な「四者間」の利害調整
弁護士は、あなたと浮気相手の関係だけでなく、その背後にいる元婚約者の動きや、あなたの配偶者が負うリスクまでを含めて全体像を把握します。「誰に、どのタイミングで、いくら請求するのが最適か」を戦略的に判断します。
2. 「取れるところから取る」判断
浮気相手に資力がない場合、無理に請求しても回収倒れになります。その場合、あえて配偶者への請求に切り替える、あるいは給与差押えを視野に入れるなど、現実的な回収プランを提示できます。
3. 将来の紛争防止
示談書に適切な条項(接触禁止、口外禁止、求償権放棄など)を盛り込むことで、「忘れた頃に元婚約者から訴状が届く」「浮気相手から嫌がらせを受ける」といった将来のリスクを遮断します。
4. 減額主張への適切な反論
「婚約破棄で社会的制裁を受けたから減額してほしい」という相手方の主張に対し、裁判例に基づいた適正な反論を行い、不当な減額を阻止します。
まとめ
浮気相手が婚約していた場合、その不倫問題は単なる「浮気」を超え、「婚約破棄」という別の法的トラブルとリンクします。
- 浮気相手の婚約破棄は、あなたの慰謝料請求権を消滅させるものではありません。
- しかし、相手の資力不足や、元婚約者からの「逆請求(配偶者への請求)」のリスクが高まります。
- 離婚しない場合は、家計全体での収支(プラスマイナス)を考えた慎重な交渉が必要です。
- 早い者勝ちの側面があるため、迅速な法的措置が鍵となります。
このような複雑な事案こそ、個別の事情に応じた緻密な戦略が必要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、多数の不貞慰謝料案件、および婚約破棄案件を取り扱っており、多角的な視点からの解決策をご提案できます。「相手も婚約していた」という事実が判明したら、事態がこじれる前に、まずは一度ご相談ください。あなたの権利を守り、平穏な生活を取り戻すために全力を尽くします。
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