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2026/03/18 コラム

不法行為責任の「故意・過失」:「既婚者と知らなかった」との反論を打ち崩す法的対抗策

はじめに

配偶者の不貞行為(不倫)が発覚し、不倫相手に対して慰謝料を請求した際、相手方から最も頻繁になされる反論の一つが「既婚者だとは知らなかった」「独身だと言われていた」という主張です。

被害者であるあなたからすれば、「そんなはずはない」「嘘をついて逃げようとしている」と憤りを感じる場面でしょう。しかし、法的な損害賠償請求(不法行為に基づく請求)が認められるためには、加害者に「故意(わざと)」または「過失(不注意)」があったことが不可欠です。もし相手が本当に何も知らず、知ることもできなかった(無過失)と判断されれば、慰謝料請求は認められません。

では、相手の「知らなかった」という主張をどのように覆せばよいのでしょうか?

本記事では、不貞慰謝料請求における最大のハードルとなり得る「故意・過失」の立証について、実務的な観点から徹底解説します。相手の嘘を見抜き、客観的な証拠で外堀を埋めていくための具体的なテクニックをお伝えします。

Q&A

「知らなかった」と言われた場合のよくある疑問

相手方が「既婚者だと知らなかった」と主張してきた場合、直ちに諦める必要はありません。まずは、この問題に関する基本的な法的判断基準をQ&A形式で確認しましょう。

Q1. 相手が「絶対に知らなかった」と言い張れば、慰謝料は請求できないのですか?

いいえ、「過失(不注意)」があれば請求可能です。

法律上、慰謝料(損害賠償)を請求するためには、相手に「故意(既婚者だと知っていた)」または「過失(注意すれば既婚者だと気づけたはずなのに、不注意で気づかなかった)」のどちらかが必要です。

たとえ相手が「本当に知らなかった」としても、通常の大人であれば気づくべき状況(例:指輪をしていた、土日は連絡が取れない、自宅に入れてくれない等)があった場合、「過失あり」として慰謝料請求が認められます。「知らなかった」だけで免責されるわけではありません。

Q2. マッチングアプリで出会い、夫が「独身」と偽っていた場合はどうなりますか?

相手に「過失」がなければ、慰謝料請求が認められない可能性があります。

近年急増しているケースです。独身者向けのマッチングアプリで、夫が「独身」とプロフィールを偽り、偽造した独身証明書を見せるなどして巧妙に騙していた場合、相手方が既婚者だと疑うことは困難です。

このように、相手方に「既婚者だと疑うべき事情」が全くなく、騙されたことに落ち度がない(無過失)と判断された場合は、不法行為が成立せず、慰謝料請求が棄却されるリスクがあります。

Q3. 「知っていたはず」と証明するには、どんな証拠が必要ですか?

直接的な自白がなくても、状況証拠の積み重ねで証明します。

「既婚者だと知っていました」というLINEや録音があれば決定的ですが、そうした直接証拠がない場合がほとんどです。

その場合、裁判所は以下のような間接事実(状況証拠)から総合的に判断します。

  • 同じ職場である(当然知っているはず)
  • 左手の薬指に指輪をしていた
  • クリスマスや正月、連休に会っていない
  • SNSで家族写真を公開していた
  • 交際期間が数年に及ぶ(長期間気づかないのは不自然)

これらの事実を積み上げ、「この状況で気づかないのはあり得ない(少なくとも過失がある)」と主張していきます。

詳細解説

「故意・過失」の壁を突破する立証テクニック

相手方の「既婚者と知らなかった」という反論は、単なる言い逃れの場合もあれば、本当に夫に騙されていた場合もあります。法的な責任を追及するためには、感情論ではなく、客観的な事実に基づいて「故意・過失」を立証する必要があります。

1. 不法行為責任における「故意」と「過失」の定義

まず、民法709条が定める不法行為の成立要件を整理します。

  • 故意(こい): 相手が既婚者であることを認識しながら、肉体関係を持ったこと。
  • 過失(かしつ): 注意すれば既婚者であると認識できたにもかかわらず、不注意で認識せずに肉体関係を持ったこと。

裁判実務において、「故意」の立証が難しい場合でも、「過失」があれば責任を問うことができます。一般の社会人としての常識に照らし、「普通なら既婚者だと疑うでしょ?」といえる状況であれば、過失が認定されます。

2. 「独身だと思っていた」という嘘を崩す具体的ポイント

相手の嘘を見破り、裁判官に「故意または過失がある」と認めさせるためには、以下のポイントに着目して証拠を集め、主張を組み立てます。

① 出会いの経緯と関係性

  • 職場不倫: 同じ職場であれば、通常は配偶者の有無を知り得る立場にあります。送別会や雑談で家族の話が出る機会も多いため、「知らなかった」という弁解はまず通りません。
  • 元同級生・知人: 共通の友人がいる場合、友人間で既婚の事実が周知されていれば、知らなかったという主張は不自然です。

② 交際中の不審な行動パターン(過失の根拠)

相手が既婚者であることを疑わせる事情(兆候)があったかどうかが重要です。

  • 連絡・会う時間: 夜間や休日に連絡が取れない、土日やイベント(クリスマス等)にデートできない。
  • 場所: 相手の自宅に一度も行ったことがない、デートがホテルや車内ばかりで遠出を避ける。
  • 所持品: 結婚指輪をしている、車のダッシュボードにチャイルドシートがある、家族の写真を持っている。

これらの事情が複数あれば、「既婚者ではないかと疑い、確認する義務があったのにそれを怠った」として、過失が認定されやすくなります。

③ SNSやインターネット上の情報

相手とSNSFacebookInstagram等)で繋がっていた場合、過去の投稿に結婚式や子供の写真があれば、「見ていないはずがない」と反論できます。たとえ繋がっていなくても、実名検索で容易にヒットする状態で家族情報を公開していれば、過失認定の補強材料になります。

3. 本当に騙されていた場合の「貞操権侵害」リスク

ここで注意すべきは、「あなたの配偶者が、独身だと偽って相手を騙していた」ことが事実だったケースです。

もし、配偶者が「妻とは離婚調停中だ」「実は独身だ」と積極的に嘘をつき、偽造した戸籍謄本を見せるなど悪質な手口で相手を信用させていた場合、相手方は「被害者」となります。 この場合、相手方からの慰謝料支払いが認められないだけでなく、逆に相手方から配偶者に対して「貞操権侵害(ていそうけんしんがい)」に基づく慰謝料請求がなされる可能性があります。

「私の体(貞操)を、嘘をついて奪った」として訴えられるリスクがあるため、夫(妻)が相手にどのような説明をしていたのか、事前に配偶者を問い詰め、LINE履歴などで確認しておくことが重要です。

弁護士に相談するメリット

「既婚者と知らなかった」という反論への対応は、事実関係の精査と証拠の法的評価が求められます。弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。

1. 「過失」を基礎づける証拠の収集・選別

一般の方では「何が過失の証拠になるか」の判断が難しいものです。弁護士は、一見無関係に見える事実(デートの領収書の日付、LINEの送信時間帯など)から、裁判所が重視する「不審な点」を抽出し、過失を立証するストーリーを構築します。

2. 相手方の嘘に対する追及

交渉において、弁護士は相手方の矛盾点を指摘します。「知らなかった」と言いながら、過去のLINEで「奥さんにバレない?」と送っていたり、「離婚するまで待つ」といった発言があったりすれば、そこを突き崩して故意を認めさせます。

3. 「貞操権侵害」の逆請求リスクへの対処

万が一、配偶者が相手を騙していた事実が判明した場合、どのように事態を収拾するか(請求を取り下げるか、それでも過失を主張するか)の戦略的判断が必要です。弁護士は、配偶者が負うリスクも含めた全体的な解決策を提案します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所の強み

当事務所は、不貞慰謝料請求において、相手方の様々な反論パターンに対応してきた豊富な経験があります。

「知らなかった」という主張が単なる逃げ口上なのか、法的に通用する反論なのかを即座に見極め、依頼者様が泣き寝入りすることのないよう、証拠収集と論理的な主張で戦います。

まとめ

不倫相手からの「既婚者だと知らなかった」という反論は、不貞慰謝料請求における典型的な防御策ですが、必ずしもそれで請求が阻まれるわけではありません。

ポイントは以下の3点です。

  1. 過失があれば請求可能: 「知らなかった」としても、不注意で気づかなかった(過失)があれば慰謝料は請求できる。
  2. 状況証拠で外堀を埋める: 職場関係、指輪、会う頻度、SNSなどの状況証拠を積み上げ、「気づかないのは不自然」であることを立証する。
  3. 騙していた場合は要注意: 配偶者が積極的に独身を装っていた場合は、請求が認められないだけでなく、逆請求(貞操権侵害)のリスクがある。

相手の言葉を鵜呑みにせず、客観的な事実を見つめることが重要です。しかし、個別の事情から「過失」の有無を判断するのは法的専門知識を要します。

相手の言い逃れを許さず、正当な賠償を受けるために、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。あなたの状況に合わせた最適な対応をご提案いたします。


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