2026/02/28 コラム
【弁護士解説】不倫の慰謝料請求、時効は「3年」それとも「20年」?起算点の勘違いと時効を止める方法を解説
はじめに
「5年前の夫の浮気が今になって発覚した。今からでも慰謝料を請求できるのか?」
「不倫相手から『もう昔のことだから時効だ』と言われたが、本当なのか?」
配偶者の不貞行為(不倫)が発覚した際、その事実が過去のものであった場合、「時効」という壁が立ちはだかります。一般的に「不倫の時効は3年」と言われていますが、インターネット上には「20年まで請求可能」という情報もあり、どちらが正しいのか混乱されている方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、不倫慰謝料の時効には「3年」と「20年」の2つの期限が存在し、それぞれの「スタート地点(起算点)」が異なります。この起算点を正しく理解していれば、数年前の不倫であっても慰謝料を請求できる可能性はあります。
本記事では、複雑な「消滅時効」の仕組みと、時効成立を阻止するための具体的な法的措置について、わかりやすく解説します。
Q&A:不倫の時効に関するよくある悩み
時効の問題は、「いつ」「何を」「どこまで知っていたか」によって結論が大きく変わります。よくある具体的なケースについて回答します。
Q1. 5年前の不倫が今日発覚しました。行為から3年以上経っていますが、もう時効ですか?
いいえ、まだ時効ではありません。今日から3年間は請求可能です。
これが最も多い誤解の一つです。不貞慰謝料の「3年の時効」がスタートするのは、原則として「不貞行為の事実および不倫相手を知った時」からです。
5年前に行為があったとしても、あなたが今日までその事実を知らず、今日初めて知ったのであれば、時効のカウントダウンは今日から始まります。したがって、今から慰謝料請求を行うことは法的に問題ありません。
Q2. 夫が浮気していることは3年前から知っていましたが、相手が誰かは最近知りました。これは時効になりますか?
相手を特定できていない期間は、時効は進行しません(相手方への請求について)。
慰謝料請求における「3年の時効」の要件は、「損害(不貞の事実)」と「加害者(不倫相手)」の両方を知ることです。
夫が浮気していることだけを知っていても、相手が特定できていなければ、相手方に対して慰謝料を請求することは物理的に不可能です。そのため、判例上も「加害者に対する賠償請求が事実上可能な程度に特定できた時」から時効が進行すると解釈されます。最近相手を知ったのであれば、そこから3年間が請求可能な期間となります。
Q3. もうすぐ時効の3年が経ってしまいます。相手が話し合いに応じない場合、どうすれば時効を止められますか?
「内容証明郵便」を送ることで6ヶ月間延長できるほか、裁判を起こすことで時効をリセット(更新)できます。
時効期間が迫っている場合、口頭で「払って」と言うだけでは時効は止まりません。法的に時効の完成を阻止するためには、「完成猶予」や「更新」といった手続きが必要です。
迅速な手段は、弁護士名義などで「催告書(内容証明郵便)」を送付することです。これにより、時効の完成を6ヶ月間先延ばしにすることができます。その間に提訴などの本格的な手続きを行えば、時効期間はゼロから再スタート(更新)することになります。
詳細解説
不倫慰謝料の時効「3年」と「20年」の仕組みと起算点
なぜ「3年」と「20年」という2つの期間があるのか。民法724条の規定に基づき、その法的構造と重要な「起算点」について詳しく解説します。
1. 2つの時効期間:「主観的起算点」と「客観的起算点」
不法行為(不貞行為)による損害賠償請求権の消滅時効は、以下の2つの期間のいずれかが経過した時点で成立します。
① 被害者側が「知った時」から3年(主観的起算点)
民法724条1号では、「被害者が損害及び加害者を知った時から3年間」権利を行使しないときは、時効によって消滅すると定めています。
これは、被害者が「請求しようと思えばできる状態」になってから3年間放置した場合に、権利を失わせるという規定です。
多くの不倫トラブルでは、この「3年」が勝負となります。
② 不貞行為の「時」から20年(客観的起算点)
民法724条2号では、「不法行為の時から20年間」権利を行使しないときも、同様に消滅すると定めています。
これは、被害者が不倫の事実を全く知らなかったとしても、行為から20年という長い年月が経てば、法的安定性を優先して請求できなくなるという期限です。
2. 「知った時」とは具体的にどの時点か?
3年のカウントダウンが始まる「損害及び加害者を知った時」の認定は、裁判でも争点になりやすいポイントです。
- 「損害」を知った時
単に「夫の帰りが遅い」「怪しい」と感じた時点では足りません。不貞行為(肉体関係)があったことを確信できる程度の証拠や情報を得た時点を指します。 - 「加害者」を知った時
ここが重要です。単に「会社の同僚らしい」という程度では不十分です。実務上は、加害者の氏名および住所を知り、損害賠償請求が事実上可能な程度に特定した時点を指します。
したがって、興信所の調査報告書を受け取り、相手の住所氏名が判明した日が「起算日」となるケースが多くあります。
3. 不倫が長期間続いていた場合の起算点
不貞行為が一度きりではなく、数年間にわたって継続していた場合、時効はいつから計算するのでしょうか?
- 原則:個々の行為ごとに進行する
厳密には、不貞行為が行われるたびに、その行為に対する損害賠償請求権が発生し、時効も進行します。 - 実務:一連の行為として「関係終了時」から計算する傾向
しかし、長期間の関係をバラバラに切り離して計算するのは現実的ではありません。裁判実務では、一連の不貞関係によって夫婦関係が侵害されたと捉え、「不貞関係が終了した時」あるいは「不貞関係が終わったことを被害者が知った時」から全体についての時効が進行すると判断される傾向にあります。
4. 「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」の違いによる時効の延長
ここまでは「不貞行為そのもの」に対する慰謝料の話でしたが、不貞が原因で「離婚」に至った場合は、別の考え方が適用されます。
不貞行為によって離婚せざるを得なくなったことに対する精神的苦痛(離婚慰謝料)の時効は、「離婚成立の日」から3年です。
つまり、不貞行為から3年以上経過し、不貞慰謝料自体の時効が成立してしまっていたとしても、離婚から3年以内であれば、「不貞が原因で離婚に至った」として、離婚慰謝料の名目で請求できる可能性があるのです。これは時効で諦めかけている方にとっての「最後の砦」となり得ます。
5. 時効を止める(完成猶予・更新)ための措置
時効期間が経過しそうな場合、ただ手をこまねいているわけにはいきません。民法には時効の進行を止める手段が用意されています。
① 催告(内容証明郵便の送付)
相手方に請求書を送ることで、6ヶ月間だけ時効の完成を猶予(一時停止)させることができます。この間に交渉をまとめるか、訴訟の準備を行います。証拠を残すため、必ず配達証明付き内容証明郵便を利用します。
② 債務の承認
相手方が「慰謝料を支払います」と認めたり、一部でも支払ったりした場合、その時点でこれまでの時効期間はリセットされ、またゼロから3年のカウントが始まります(時効の更新)。
相手方に「念書」を書かせる、あるいは会話を録音して「支払う意思」を確認することが非常に有効です。
③ 裁判上の請求(訴訟・調停・支払督促)
裁判所を通じた手続きを行うことで、手続き中は時効が完成せず(完成猶予)、判決や和解で権利が確定すれば、時効期間はそこから新たに「10年」に延長されます(時効の更新)。
弁護士に相談するメリット
時効の問題は、「数え間違い」が命取りになります。ご自身で判断せず、専門家である弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
1. 正確な「起算点」の診断と時効可否の判断
「いつ知ったと言えるのか」「この証拠で特定できたと言えるのか」という微妙な判断は、過去の裁判例に照らして行う必要があります。弁護士は、あなたの状況をヒアリングし、まだ請求が可能か、時効の壁を突破できるかを法的観点から診断します。
2. 時効中断(完成猶予)措置の迅速な実行
時効期限が数日後に迫っているような緊急事態でも、弁護士であれば即座に内容証明郵便を作成・発送し、時効をストップさせることが可能です。この初動のスピードが権利を守る鍵となります。
3. 「債務承認」を引き出す交渉術
時効が完成している可能性がある微妙なケースでも、交渉の仕方によっては、相手方から「債務の承認」を引き出すことができる場合があります。法的な知識を持った弁護士が介入することで、相手方の不用意な発言や対応を引き出し、有利な状況を作り出します。
まとめ
不倫の慰謝料請求における時効は、決して単純な「3年ルール」だけではありません。
- 原則は「事実と相手を知ってから3年」。
- 事実を知らなくても「行為から20年」までは請求の余地がある。
- 離婚する場合は「離婚から3年」まで延長される可能性がある。
- 内容証明郵便や裁判、相手の承認によって時効は止められる。
「昔のことだから」と諦める前に、まずはその「昔」が法的にいつを指すのかを確認してください。数年前の苦しみを、今からでも正当な償いとして清算できる可能性は残されています。
あなたの「権利」が時間切れで消えてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、あなたの失われた時間と心の平穏を取り戻すために全力を尽くします。
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