2026/04/10 コラム
マッチングアプリの落とし穴:「独身偽装」に対する貞操権侵害の慰謝料請求
はじめに
近年、マッチングアプリの利用者数は急速に増加しており、新たな出会いの手段として定着しています。しかし同時に、アプリ上で「独身」と偽って相手を欺き、実は既婚者であったというトラブルが起きています。
このような「独身偽装」に基づいて関係を持たされた場合、単なる恋愛トラブルではなく、法的な問題へ発展する可能性があります。具体的には、貞操権侵害を理由とした慰謝料請求が認められることもあり、相手方やその配偶者からの請求に直面することもあります。
本稿では、マッチングアプリにおける独身偽装の問題に対する法的な考え方、慰謝料請求の要件や相場、そして実践的な対応方法について解説いたします。
Q&A
よくあるご質問
Q1:マッチングアプリで「独身」と偽った相手に、慰謝料を請求できますか?
法的には、以下の条件を満たす場合、慰謝料請求が認められる可能性があります。
- 相手が既婚者であることを隠して、独身であると詐称した
- その詐称に基づいて、あなたが相手と肉体関係を持つなどの不貞行為に及んだ
- その結果、あなたの貞操権が侵害された
- 相手に故意または過失がある
特に、相手が配偶者の存在を隠して独身と騙した場合、詐欺的な行為として認定されやすくなります。この場合、慰謝料請求が認容される可能性は高いと言えます。
Q2:既婚者の配偶者から慰謝料請求をされるリスクはありますか?
あります。重要なポイントとしては、以下の点が挙げられます。
- あなたが相手の既婚者であることを知らなかった場合でも、相手の配偶者から慰謝料請求を受ける可能性があります
- ただし、相手の既婚者であることを知らなかったという事実が考慮され、慰謝料額が減額される傾向にあります
- 一方、マッチングアプリのプロフィール確認や相手の発言から既婚者であることが推測できたのに見落とした場合は、請求される額が増額される可能性があります
つまり、「知らなかった」という事実は有利に働く可能性がありますが、状況によっては相手方の過失が大きく評価される場合もあります。
Q3:証拠がない場合、慰謝料請求はできますか?
証拠がないと請求の立証が困難になります。しかし、以下の方法で証拠を集めることが可能な場合があります。
- マッチングアプリのプロフィール画面や相手との会話のスクリーンショット
- メッセージのやり取り記録(「独身です」などの発言が含まれるもの)
- 相手と会った際の日時や場所の記録
- 相手の住所や勤務先など、既婚者であることを示唆する情報
これらの証拠があれば、慰謝料請求において有利に働きます。
解説
マッチングアプリにおける「独身偽装」の現状と法的位置付け
マッチングアプリは、利用者が自身の身分や生活状況を自由に入力できるプラットフォームです。そのため、既婚者が「独身」と虚偽の情報を登録し、他の利用者を欺くケースが生じています。
このような行為がもたらす害悪は、単なる感情的な傷つけに留まりません。相手が既婚者であることを隠した状態で肉体関係を持たせられた場合、民法上の貞操権侵害にあたるとして、慰謝料請求が認められる可能性があります。
貞操権とは、一個人が自身の性的自由を守る権利を指します。法律では明示的に定義されていませんが、判例において、婚外の肉体関係を持たされることで侵害される人格的利益として認識されています。特に、相手の既婚者性を隠したことによって肉体関係に至った場合は、詐欺的要素が強く、慰謝料請求が認容されやすくなります。
貞操権侵害に基づく慰謝料請求の法的根拠
慰謝料請求の法的根拠は、主に民法710条(不法行為に基づく損害賠償請求権)に求められます。具体的には、以下の要件が必要です。
- 違法行為の存在
マッチングアプリで独身と偽って相手を欺き、肉体関係を持つに至らせた行為は、詐欺的な違法行為として評価されます。相手が既婚者であることを隠したという積極的な欺瞞行為が重要です。 - 相手方の故意または過失
相手が既婚者であることを知りながら独身と嘘をついた場合、故意があります。故意がある場合、慰謝料請求が認容される可能性は高くなります。 - 貞操権の侵害
肉体関係を持つに至ったこと自体が、あなたの貞操権を侵害しています。相手の既婚者性が隠されていたという特殊性が加わることで、侵害の程度が大きいと評価される傾向にあります。 - 因果関係
相手の独身偽装という欺瞞行為と、あなたが肉体関係を持つに至ったことの間に、因果関係が必要です。つまり、独身であると信じたからこそ関係を持ったという事実が重要です。
慰謝料請求における相場と判例の傾向
マッチングアプリでの独身偽装に基づく慰謝料請求の相場は、以下の要因によって左右されます。
相場の目安
一般的には、50万円から150万円程度の慰謝料が認められるケースが多いとされています。ただし、以下の事情により変動します。
- 肉体関係の期間や回数
- 相手の欺瞞の度合い(組織的な詐欺か、単発の嘘か)
- 精神的苦痛の程度
- あなたの相手の既婚者性についての調査努力の有無
判例の傾向
実務では、以下のような考え方が採用されています。
- 独身と明示的に嘘をついた場合:慰謝料請求が認容されやすい
- 単に既婚者である事実を隠したに過ぎない場合:請求が認容されにくい傾向
- 相手が複数の異なるマッチングアプリで同様の詐欺を繰り返していた場合:加重要因として考慮される
- あなたが相手の既婚者性について調査可能であったにもかかわらず怠った場合:慰謝料額が減額される可能性
既婚者の配偶者からの慰謝料請求と法的責任
重要なポイントとして、あなたが相手の既婚者であることを知らなかった場合でも、相手の配偶者から慰謝料請求を受ける可能性があります。この場合、あなたの法的責任はどのように判断されるのでしょうか。
「知らなかった」という主張の効力
民法709条の不法行為には、一般的に故意または過失が必要とされています。あなたが相手の既婚者性を知らなかった場合、過失が認定されない可能性があります。しかし、以下の状況では過失が認定される可能性があります。
- マッチングアプリのプロフィール欄に結婚歴や子どもの情報が記載されていた
- 相手の発言から既婚者であることが推測できた(「妻が」「子どもが」という言及など)
- 相手の生活パターンから既婚者であることが容易に判断できた
慰謝料額の減額事由
あなたが既婚者性を知らなかった場合、配偶者からの請求において、以下の理由から慰謝料額が減額される傾向にあります。
- あなたに過失がなかった場合:慰謝料が減額される、または慰謝料請求が認められない
- あなたが相手の既婚者性を確認する機会がありながら怠った場合:減額幅は小さくなる
- 既婚者側が巧妙に隠蔽していた場合:あなたの過失が認定されない可能性が高い
実務では、配偶者からの請求に対しても、あなたが相手を騙す側であったのではなく、相手に騙された側であるという立場が、有利に評価されることが多いです。
証拠収集のポイント
慰謝料請求を成功させるためには、証拠の確保が極めて重要です。以下の項目について、可能な限り証拠を集めておくことをお勧めします。
デジタル証拠
- マッチングアプリのプロフィール画面(「独身」と記載されている部分)のスクリーンショット
- メッセージのやり取り(「独身です」「今まで結婚したことがありません」などの発言)
- 相手のプロフィール写真やプロフィール情報が確認できるスクリーンショット
- アプリ内での会話の日時が記録されたスクリーンショット
物理的証拠
- 相手と会った際のレシートや写真
- 相手からのメール、LINE、その他のメッセージ
- 相手の住所や連絡先が記載された書類やメモ
その他の証拠
- 相手が既婚者であることを示す客観的事実(例:登記簿謄本、住所から得た情報など)
- あなたが相手の既婚者性について質問した記録
- 相手の配偶者や親族からの連絡記録
証拠保全の実務
証拠は可能な限り早期に保全することが重要です。マッチングアプリのメッセージは、アカウント削除や相手によるメッセージ削除により失われる可能性があります。以下の対応を検討してください。
- スクリーンショットを複数保存する
- PDF形式で変換して保存する
- クラウドストレージに保存して、消失を防ぐ
- 必要に応じて、アプリ運営事業者に対して、データ開示請求の可能性について弁護士に相談する
相談・相手方交渉と法的手続き
慰謝料請求を行う場合、以下のプロセスが一般的です。
相手方への請求
まず相手方に対して、内容証明郵便により慰謝料を請求します。この段階で相手方が応じない場合、訴訟の準備に移ります。
調停・訴訟
相手方と合意できない場合、家庭裁判所への調停申し立て、または簡易裁判所(請求額が140万円以下の場合)或いは地方裁判所(請求額が140万円を超える場合)への訴訟提起となります。
この段階では、証拠の提出と法的主張が決定的な役割を果たします。弁護士のサポートがあれば、より効果的な請求が可能になります。
弁護士に相談するメリット
マッチングアプリでの独身偽装に対する慰謝料請求は、法的知識と実務経験を要する複雑な問題です。以下に、弁護士に相談するメリットを示します。
- 法的権利の明確化
あなたが慰謝料請求の対象となるかどうか、また請求できる場合の相場がどの程度かについて、法的見地から的確に判断します。 - 証拠の評価と補強
保持している証拠が法的に有効であるかどうかを判断し、不足している証拠があれば、その収集方法について助言します。 - 相手方との交渉
相手方に対して適切な請求書を作成し、交渉を進めます。多くの場合、弁護士が介入することで、相手方が応じやすくなる傾向があります。 - 訴訟手続きの代理
調停や訴訟に至った場合、弁護士が代理人として対応することで、より有利な判決獲得の可能性が高まります。 - 配偶者からの請求への対応
既婚者の配偶者からの慰謝料請求を受けた場合、防御方法についても適切に助言します。 - 精神的サポート
法的手続きは複雑で心理的負担が大きいものです。弁護士のサポートにより、精神的な安定を保ちながら問題解決に臨むことができます。
まとめ
マッチングアプリにおける独身偽装は、単なる恋愛トラブルではなく、法的責任を伴う重大な問題です。以下の点を改めて整理します。
重要なポイント
- 相手が独身と偽って肉体関係を持たせた場合、貞操権侵害を理由とした慰謝料請求が認められる可能性が高い
- 慰謝料の相場は、50万円から150万円程度とされており、事情によって変動する
- あなたが相手の既婚者性を知らなかった場合でも、配偶者からの慰謝料請求を受ける可能性があるが、減額される傾向にある
- 証拠の確保が慰謝料請求の成功を左右する重要な要素である
- マッチングアプリのメッセージやプロフィール情報は、可能な限り早期に保全すべきである
対応方針
このようなトラブルに直面された場合、まず冷静に状況を整理し、証拠を集めることが重要です。相手方に対して単独で対応することは、感情的な対立や交渉の失敗につながる可能性があります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、不貞関係に関連するトラブルについて、豊富な経験と実績を有しております。独身偽装に対する慰謝料請求、あるいは配偶者からの請求への対応について、専門的なアドバイスと実行支援を提供いたします。
お困りの状況やご不安なことについて、まずはお気軽にご相談ください。あなたの権利を守り、適切な解決へ導くために、私たちはお力になります。
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