2025/12/07 コラム
不倫問題が原因で家族が経済的困難に陥った場合の対策
~生活の安定を取り戻し、未来を守るために~
はじめに
不倫問題は、精神的な苦痛だけでなく、家族全体を深刻な「経済的困難」に陥れる危険性をはらんでいます。不倫をした側は、配偶者や不倫相手への慰謝料支払いという予期せぬ巨額の負債を抱えることになります。また、離婚に至った場合、それまで一つの世帯収入で維持されていた生活が二つに分かれ、特に子どもを引き取った親(多くの場合、母親)は、収入の減少と支出の増加という二重苦に直面します。
生活基盤が揺らぐことは、当事者の精神状態をさらに悪化させ、ひいては子どもの生活環境や教育機会にも直接的な影響を与えかねません。
このような経済的困難に直面した際は、感情的にならず、利用可能な「法制度」と「公的支援」を正確に理解し、冷静に生活を再建する計画を立てることが不可欠です。
本稿では、不倫問題が原因で家族が経済的困難に陥った場合の具体的な対策について、2024年(令和6年)に成立した民法改正(家族法改正)の最新情報を踏まえ、実務的なアドバイスを提供します。
不倫問題に伴う慰謝料の支払いや、離婚による経済的困難に関するご相談は、ぜひ当事務所へご連絡ください。
Q&A
Q1:不倫問題で家族が経済的困難に陥る主な原因は何ですか?
主に以下の3つのパターンが考えられます。
- 慰謝料支払いの発生
不倫をした側が、配偶者や不倫相手に高額な慰謝料を支払う必要が生じ、家計が圧迫されます。 - 離婚による世帯収入の減少
離婚により配偶者の収入がなくなり、世帯全体の収入が激減します。 - 離婚後の生活費増加
特に子どもを引き取った側は、家賃、光熱費、教育費などを一人で支えることになり、支出が増加します。
Q2:不倫をした夫(妻)が慰謝料を支払えず、経済的に困窮しています。減額交渉は可能ですか?
はい、交渉の余地はあります。慰謝料は法的に支払い義務がありますが、支払い能力を大幅に超える金額を一括で支払うことは現実的ではありません。弁護士を通じて、相手方と分割払いの交渉を行ったり、収入状況に応じた現実的な金額での和解を目指したりすることが考えられます。
Q3:離婚後、子どもを引き取りましたが経済的に苦しいです。どのような対策がありますか?
まずは①「養育費」を確実に受け取ること、②「財産分与」を適正に受けること、そして③「公的支援制度」を活用すること、の3点が重要です。特に①と②については、2024年の民法改正で、権利を守るための強力な新制度が導入されています。
解説
ここからは、不倫問題による経済的困難の具体的なケースと、それを乗り越えるための対策について解説します。
1)経済的困難に陥る具体的ケース
ケースA:慰謝料支払いによる家計圧迫
不倫をした側(有責配偶者)は、慰謝料の支払いに直面します。これが数百万円単位になることもあります。この支払いのために貯蓄を取り崩したり、借金をしたりすることで、家族全体の家計が危機に瀕します。離婚しない場合でも、この経済的負担が夫婦関係にさらなる亀裂を生むこともあります。
ケースB:離婚による収入減少(特に子どもを引き取る側)
離婚により、世帯が二つに分かれると、経済的基盤が弱い側(多くの場合、非正規雇用や専業主婦であった母親)が困窮します。養育費の取り決めが曖昧だったり、支払いが滞ったりすると、即座に生活が立ち行かなくなるリスクがあります。
2)【2024年民法改正】経済的困難を乗り越えるための法的ツール
経済的困難、特に離婚後の生活困窮を防ぐため、2024年の民法改正では、養育費と財産分与に関するルールが大幅に強化されました。これは、経済的困難に陥った(または陥りそうな)方にとって、生活を再建するための強力な「法的ツール」となります。
対策1:養育費を確実に確保する(改正法の活用)
子どものいる家庭にとって、養育費は生活の命綱です。
-
- 法定養育費の新設
養育費の取り決めがない場合でも、法律上の要件を満たせば請求できる「法定養育費」制度が導入されました。 - 執行手続の容易化
不払いがあった場合の差押え手続が、より迅速に行えるよう改善されました。
- 法定養育費の新設
対策2:適正な財産分与を受ける(改正法の活用)
離婚時に受け取る財産分与は、生活再建のための重要な元手となります。
-
- 請求期間「5年」への伸長
離婚後5年以内であれば財産分与を請求できるようになったため、離婚時に十分な取り決めができなくても、後から請求する道が大きく開かれました。 - 財産開示制度の強化
相手の「財産隠し」が疑われる場合、裁判所を通じて財産開示を命じ、応じない場合は過料の制裁を科すことができるようになりました。これにより、適正な財産分与を受けられる可能性が高まりました。
- 請求期間「5年」への伸長
3)慰謝料や養育費の負担軽減策(支払う側)
逆に、慰謝料や養育費を支払う側が経済的に困窮し、約束通りの支払いが困難になるケースもあります。
- 慰謝料の分割払いの交渉
一括での支払いが困難な場合、弁護士を通じて、相手方に対し、誠意ある謝罪とともに、現実的な分割払いの計画を提案し、交渉します。 - 養育費の減額調停
養育費は、一度決めたら終わりではありません。失業や大幅な減収、あるいは相手方(受け取る側)の大幅な増収など、「事情の変更」があった場合には、家庭裁判所に「養育費減額調停」を申し立て、支払い額の変更を求めることができます。
4)活用できる公的支援制度
法的な解決と同時に、利用できる公的支援制度を最大限に活用することが、経済的困難を乗り越える鍵となります。特に、ひとり親家庭(母子家庭・父子家庭)に対しては、以下のような手厚い支援が用意されています。
表:主なひとり親家庭向け公적支援
|
支援制度の分類 |
制度名 |
概要 |
主な対象者 |
|
手当・給付金 |
児童扶養手当 |
ひとり親家庭等の生活の安定と自立を助けるための手当。所得に応じて支給額が変動します。 |
18歳までの子を養育するひとり親等(所得制限あり) |
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子育て世帯生活支援特別給付金 |
物価高騰対策などとして、低所得の子育て世帯に支給される一時金(例:子ども1人5万円など)。 |
住民税非課税のひとり親世帯等 |
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教育費支援 |
高等教育の修学支援新制度 |
大学、短大、専門学校等の授業料・入学金の減免と、給付型奨学金の支給が受けられます。 |
住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生 |
|
医療費助成 |
ひとり親家庭等医療費助成制度 |
ひとり親家庭の親と子の医療費(保険診療の自己負担分)の一部または全部を助成する制度。(名称や内容は自治体により異なる) |
ひとり親家庭の親と子(所得制限あり) |
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就労・自立支援 |
自立支援教育訓練給付金 |
資格取得など、自立に役立つ教育訓練講座の受講費用の一部を支給します。 |
ひとり親家庭の父母(受講前に指定が必要) |
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母子父子寡婦福祉資金貸付金 |
子どもの修学資金、親の事業開始資金、住宅資金など、幅広い用途の資金を無利子または低利で借りられます。 |
20歳未満の子を扶養するひとり親等 |
これらの制度は、多くの場合、申請しなければ利用できません。お住まいの市区町村の役場(子育て支援課など)で、自身が利用できる制度がないか必ず確認してください。
弁護士に相談するメリット
家族が経済的困難に直面している時こそ、弁護士への相談が事態打開の糸口となります。
- 養育費・財産分与の交渉と法的手続の代理
2024年の改正法を最大限に活用し、適正な養育費や財産分与を獲得するための交渉・調停・訴訟をすべて代理します。法的手続を弁護士に任せることで、依頼者は生活再建や仕事探しに集中できます。 - 慰謝料の交渉(請求側・支払側)
請求側としては、できる限り慰謝料の回収を目指します。支払側としては、家計状況を踏まえた減額や分割払いの交渉を行い、破綻を回避する現実的な解決策を模索します。 - 家計再建に関する総合的アドバイス
法的な問題解決だけでなく、利用可能な公的支援制度(児童扶養手当、給付金など)の情報提供や、必要に応じて税理士などの専門家と連携し、家計全体の再建をサポートします。 - 迅速な差押え手続
養育費や慰謝料の支払いが滞った場合、迅速に相手の給与や預金口座を差し押さえる「強制執行」手続を行い、債権を回収します。
まとめ
- 不倫問題は、慰謝料の発生や離婚による収入減により、家族を深刻な経済的困難に陥れるリスクがある。
- 2024年の民法改正は、経済的弱者を守るため、養育費の確保と財産分与の請求に関するルールを大幅に強化した。
- 財産分与の請求期間は「5年」に伸長され、「財産隠し」に対抗する財産開示制度も導入された。
- 養育費の確保策も強化され、離婚後の生活基盤の安定が図りやすくなった。
- 児童扶養手当や各種給付金など、利用できる公的支援制度は漏れなく申請し、活用することが重要である。
- 弁護士は、最新の法制度と公的支援の知識を駆使し、依頼者が経済的困難を乗り越え、生活の安定を図るための法的サポートを行います。
不倫問題が原因で家族が経済的困難に陥った場合の対策についてお悩みの方は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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